(13)★↓下の(12)に補足(1999/09/01)
　全体として、MA誌増刊の方は次回に期待。これぞディティールアップの真髄、というのを見せて欲しい所。MG誌の方は本誌のたまの特集に限界があるので、３ヶ月に一回位で良いからAM誌の様な艦船模型の専門誌を出して欲しい所。また、一般のサラリーマンはそうそう週に何時間も模型に時間を割いていられないと思うので、単に「何ヶ月で作った」という記述だけでなく、この位手を加えて何時間かかるので、全体的にこの程度のレベルのもので何ヶ月程度で完成する、という所まで出して欲しい所だ。この辺はAFVの製作記事の方ではMG誌系でかなり以前からやっている。

(12)★「艦船模型テクニックブック」他の評(1999/08/31)

＊モデルアート誌別冊「艦船模型テクニックブック」について
　「艦船模型テクニックブック」が出版された。「まあ、こんなものかな」というのが一言感想という所。著者の松本晃孝氏は10年くらい前からMA誌では艦船模型記事のメインライターである衣島尚一氏を補佐する様な形で外国艦のガレージキットの新製品のレビュー等の記事を書いてこられた方で、新製品紹介としてやはり手堅い作りを見せてこられた方である。氏の手堅さは分かるし、この本があくまで初心者や中級者向けの本である事は分かるのだが、やや疑問に感じる部分も幾つかあった。
　まず、氏自身が、いきなりエッチングパーツ等を使ったディティールアップに走るより、まずプラモの完成品として手堅い作りを大事にする、というのは分かるのだが、他人の作品を見て「細かくディティールアップをしてあるが艦底部品との間に段があったり隙間があったりする作品を見かける」といった様に、一種のアラ捜しや揚げ足取りをする文章を書いてしまってそこから話を始める、といった語り口には疑問を感じる。松本氏は作例記事執筆者(ライターという呼び方はどうも安っぽくいのでこう呼ぶ)なのだから、氏以外の作品は総て読者の作品である訳だ。執筆者が読者の作品、しかも松本氏より先輩の作られたかもしれない作品の揚げ足とりをしてしまう、というのは、大げさに言えば執筆者という立場に胡座をかいた傲慢という事になる。これが月刊の本誌の方であれば少々は許されるかもしれないが、一種の単行本でそれをやってしまってはまずい。御客様は神様、ひいては読者様は神様という立場を売り手である側はもっと考えなくてはならないと思う。
　また、「あとがき」で「モデル製作においても艦船が専門ではない」と書いてしまうのは如何なものであろう。本人としては一種の謙遜のつもりなのかもしれないが、MA誌で他のジャンルの作例を多々やって来ている訳ではなく、艦船ばかり担当しているので、少なくとも作例製作者、記事執筆者としては「艦船の専門家」である訳なのだからもっと自覚をもって貰いたい。勿論氏が趣味として、艦船だけでない他のものに興味があったりする事は全く構わない。また、他のジャンルの技法が艦船模型の製作に役立つというのも事実だと思うので、たまには他のジャンルをやってみては、と勧めるのも結構な事だ。しかし、ここでもやはり「初心者から中級者向け」という事を忘れている。だいたい、(艦船模型に)初心者である場合、他のジャンルをやってきている人も多いのだから、そういう人々に向かって「たまには他のジャンルを」はないであろう。結局、この文は最初の方で初心者〜中級者向けと書いておきながら、いつのまにか「艦船専門のベテラン向け」になってしまっているのだ。しかも、最後に「製作技術を上げるコツは」などとのたまう。「製作技術を上げるコツは」などとのたまえるのは、艦船模型界で相当名の知れた名人の方くらいではないのであろうか。全体として、模型作例や製作方法の細かい紹介の部分は悪くなかったのだが、文章に関してはかなり雑になってしまった様だ。松本氏だけでなく彼にもっと良い文章を書かせなかったMA誌編集の責任であるとも言える。

　・・・と、厳しく批評した様であるが、全体としてはそう悪くはないと思う。作例に関しては、「ディディールアップ」の作例のディティールアップの仕方がややピンボケで、あれだけ手を加えながら何故か「那智」のボラードも煙突もそのままだったりという不思議さはあるが、全体的に丁寧にやってあるし、それも作風のうち、と見れなくもない。また、いままでMA誌はこの種の増刊を出すとほぼ必ず衣島尚一氏が作例記事から文章までほぼ総て担当していたのだが、氏に比べれば若手で新人の松本氏が初めて大掛かりに担当されたという事で、これからが期待されるのである。
　しかし、個人的にはこの種の「ガイドブック」の類は、一人だけに作例からその記事まで総て担当させるのではなく、むしろ最新号のMA誌やMG誌('99年10月号)の様に複数の人間にやらせるべきではと思う。やはり夫々の作風、個性というものがあるのだから、初心者〜中級者向けを考えれば余計に「色々な作り方から学びましょう」といった配慮にも繋がると思うのである。

＊モデルグラフィックス誌'99年10月号の艦船特集について
　これは予想以上に大掛かりな特集であった。印象的だったのが、上記テクニックブックでもメインの見所の一つで、従来のMG誌の製作記事でも定番であった「製作途中の写真を載せてどこにどう手を加えたかを明確にする」という事を総て潔く捨ててしまった事である。その分、数多く作例を載せている。なる程、ある程度以上のモデラーになれば、完成品を見ればどこにどう手を加えたかは完全ではないにしろ分かるので、作例品製作者にもそれなりに負担となると思われる製作中の作例写真を無しにするという方向性は少なくとも今回に限っては成功だったと思う。
　作例的には、やはり大木清太郎氏のものが新鮮で、感心出来るものであった。空中線や手すり等、明らかにオーバースケールではあるのだが、統一感を持ってキッチリ作ってあるのでそれが個性にもなっていて感動的ですらある。また、手すりを一段にディフォルメするという方式もGOODである。実は私も以前にある戦艦のごく一部でそうした事があったので余計に共感出来る。もちろん、私はオーバースケールのものはどんなにキチンと作ってあっても基本的に好きでないので自分はああいう風には作らないだろうな、とは思うが。
　文章も、大木氏のものに限らず全体的にごく普通で、特に問題なかったと思う。MG誌の従来の文章は全体的に、特に艦船系で、アクの強い所があってそれを嫌う年配のモデラーも少なからずいらっしゃる様であるが、少なくとも今回に限っては問題なかったのではないだろうか。 　また、個人的には何の前後脈絡もなく「フランス戦艦ジョーレギベリ」が出てくる所はMG誌らしくて気に入った。英国艦については、作例はなかったものの岡部いさく氏の記事で我慢、という所か・・・。
　こう書いてみると随分高く評価している様に見えるかもしれないがそういう訳でもない。MG誌は以前タミヤが1/700大和型をリニューアルした時に製作記事を載せなかったらしいので、その分も含めて今回、纏めてやってしまったな、という感じが強い。今井邦孝氏の２ページの側面図中心の記事など、今更なぁ、という感もする。それと、上総海軍工廠の最上の記事に関しては、これはレジンの主要パーツのみのキットなのだから、これだけはキットのパーツの状態の写真を載せた方が良かったのでは、と思った。作山氏の作例自体はマスト等が適度に細く、細かく作ってあって好感の持てるものであるが。

＊モデルアート誌'99年10月号の艦船特集について
　松本氏が増刊号の執筆にかかりきりだったせいか、ベテランの衣島尚一氏が久々の大活躍。衣島氏は模型誌作例執筆者としてはご年配の方だそうであるが、なかなか頑張っており、この地位はちょっとやそっとでは揺らがないと思う。松本氏も一隻作例を担当しているが、スタンダードで問題ない。もともとこの方はMA誌本誌ではごく普通の文を書いてきたと思うので、増刊の方では文章を書くスペースが増えてつい余計な事を書いてしまったのであろう、という所だ。